『あきらめないことにしたの』
堀米 薫 著
新日本出版社
古来より土に親しみ、農作物を作ってきた日本人。時代が進み、国が先進国の仲間入りをするにつれ、人は都会に移り住み、土から離れていってしまった。そして農作物を作る苦労や喜びも感じることなく、多くの都会人は当たり前に物を食し、当たり前のように捨てる。
その結果、日本の食品廃棄は年間約1700万トン(農林水産省、平成22年度推計)。このうち食べられるのに廃棄される「食品ロス」は年間約800万トン。1日にコンビニのおにぎり約22万個が捨てられている計算になるという。
そのような状況に大きな違和感を感じていた時に、私は本書と出合ったのだ。本書は、原発事故で故郷を追われながらも、くじけずに前に進む福島のある女性を追ったノンフィクションである。本書の著者自身も肉牛農家として日々働いているため、当然のことながら農業に関する知識が豊富なため、非常に読みやすい。他の作家に真似のできない視点で書かれているのが特徴と言える。
本書の主人公である渡邊とみ子さんは福島県飯舘村にお嫁に行き、そこでイータテベイク(じゃがいも)と「いいたて雪っ娘」(かぼちゃ)に出合う。本書はそれを村の特産品にしようと奔走するところから始まる。
イチから育てるだけでも難しいと思われるのに、厳しい検査に合格するために渡邊さんは懸命の努力をする。しかし東日本大震災による福島第一原発事故で、すべての苦労が水の泡となってしまう。そして故郷まで追われるという悲劇。これを悲劇と言わずして何を悲劇というのだろうか。しかし渡邊さんは諦めず、前に進んで行くのだった。渡邊さんとともに活動する人々の様子を読むにつけ、ハンカチが手放せなくなる。
私たちは、3・11で被災し、今なお困難な生活をしている方たちのことを忘れてはいないだろうか。私たちの日々のエネルギーの源となる農作物を生産する人々のことを忘れてはいないだろうか。そんなことを強く思い起こさせるのが本書である。
食事を済ませたあとで、親子で本書をもとに語り合うひとときをもってほしいと思う。そして政(まつりごと)を司る人たちも、ぜひ本書を手に取ってもらいたいと切に願う次第である。
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