カラン。
そっとお店のドアを開けた時、ふわり。メェさんの鼻に柔らかいやさしい香りが届きました。
「いらっしゃいませ。羊の執事のしつじーさん、こと、メェさんですね?」
柔らかいやさしい声と満面の笑顔が届きました。20代前半位の若い男性が、ニコニコしてメェさんに微笑んでいます。
「今日は貸し切りにしてあります。さあ、どうぞ中へ。お腹空いていませんか? 少し顔色が悪く見えますね。お仕事いつも、お疲れ様です。今日はありがとうございます、メェさん」
その声は、メェさんの疲れた心にしみました。出てきた料理をおいしく食べながら、ぽろり。メェさんの目から涙が出てきました。
「・・・あ、あれ? わたし・・・なぜ・・・」
「いいんですよ、メェさん。たまには思い切ってはきだして、心をスッキリさせるのも大事です」
タベルノダイスキさんは言いました。
「・・・王宮に、来てはいただけませんかな、タベルノダイスキさん」
メェさんの言葉に、タベルノダイスキさんはちょっとびっくりしています。
「わたしだけでは手一杯ですぞ・・・。タベルノダイスキさん、あなたに相談に乗っていただきたいのです。どうか、お願いします・・・」
頭を下げたメェさんを、タベルノダイスキさんはちょっと戸惑っているみたいです。それはそうでしょう。タベルノダイスキさんだって、きっと困ると思います。
「そうですか・・・しばらく考えさせてください。ボク、うれしいですっ! そんなに言ってくださって。少し・・・時間をください」
「もちろんですぞ」
メェさんはうなずきました。
「いつまでも待ちます。来てくださるまでずっと」
タベルノダイスキさんが了解の返事をくれたのは、それから10日後のことでした。
(つづく)