がめ島うらしま館(10/14)

文・伊藤由美   絵・伊藤耀

同じころ、美里は夏の浜辺に立っていました。
そこは高巣海水浴場によく似ていますが、人っ子ひとりおらず、おきには船もセーリングボードも見当たりません。

「すごく静か。それに、なんだか、空がずいぶん青い」
ピカンと、タブレットが光り、5問目が現れました。
「『浦島太郎が助けたカメはオスだったでしょうか、それとも、メスだったでしょうか?』ええ! こんなこと、どうやって分かれって言うの?」

その時、砂浜のつきるところ、あらあらしく波がくだけている岩の上に、だれかが、のっそり、立ち上がりました。
つりざおを持ち、ポニーテールにこしみのスカート。絵本や物語のさし絵で何度も目にしたあのスタイルです。

「あの人、浦島太郎だ! だれかと話している。カメだ! わ、つりざおをおいて、カメに乗ろうとしている。今から竜宮城へ行く気なんだ!」
美里はあわてて、走り出しました。

「おーい、待って、浦島太郎! 行かないで! そのカメ、オスなの? メスなの? 教えて!」
砂地は走りにくく、美里は足をとられて転びました。
その間に、浦島太郎はカメにまたがり、どんどん、おきに出ていって、ついには、ぷくんと、見えなくなりました。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに