リスくんの顔は、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっています。手を見ると、ヤギさんからもらった袋がパンパンにふくらんでいます。
「どうなっているんだ?」
リスくんは、ふくろをそっとあけてみました。
「のろま!」「おまえのようなやつは!」
イノシシ店長のどなり声です。リスくんはあわてて袋の口をしめました。
「うわー、袋が、店長のことばをすいとってる! よーし、これをつけものにしてもらおう」
リスくんはヤギさんのところにいってみましたが、たるだけがおいてありました。
「ヤギさーん、あれ、いないなあ。悪いけど勝手につけさせてもらおっと」
そこには、黄色に茶色、白、オレンジのたるがありました。
「どれを入れたら、店長のことばがなおるつけものができるのかな。よし、全部入れてやれ」
リスくんは、小さな手で、すべてのたるのぬかを何杯も袋にいれました。そのたびに「こののろま!」と、店長のどなり声がもれてきます。
「ひー、店長だ」
リスくんは、ひっしに袋をふりました。
中をのぞいてみると、くろっぽいものが10切れもできています。
「店長のことばのつけものはまずそうだけど、店長に食べさせてやる!」
リスくんは、急いでお店に帰りました。
「おい、リス、どこへ行ってた!」
店長は、チャーシューを切りながら、横目でにらみました。
「て、店長。これを食べてみてくれませんか?」
「ふん、なんだ、つけものか」
「ぼ、ぼくが、つけてみたんです」
店長がひときれつまみました。ボリボリ。
「うえー、なんだこの味は。こんなものをつけに、店をさぼっていたのか、このやろう」
店長は、おたまをリスくんになげつけました。
「店長のオレ様をばかにしやがったな!」
「ひえー、ごめんなさーい」
リスくんは、また店をとびだしていきました。
「おや、リスくん、どうしたんじゃ?」
ヤギさんが、青い顔をしたリスくんに声をかけました。
「ヤギさんのいないときに、店長のことばをつけものにしたの。それを食べさせたら、店長はもっときついことばになっちゃったんだ」
リスくんは、袋の中の残ったつけものをみせました。
「おやおや、これを食べさせたのかい? よしワシがつけかたを教えてあげよう」
ヤギさんは袋に新しいぬかを入れて、リスくんにわたしました。
リスくんは袋をふりました。
ジャンカ、ジャンカ、ジャンカ。
「中をみてごらん」
「ぜんぜん変わってない! 黒いままだ」
リスくんは、袋の中とヤギさんの顔を交互に見ました。
「リスくんは店長のことを責めながらふらなかったかい」
「えっ?」
「『店長のやつ、いまにみてろ』っておもいながらではだめなんじゃ。店長がやさしいことばになって、みんなと楽しく仕事ができますように、と心をこめてふってごらん」
ヤギさんにいわれ、リスくんは、目をつむり、祈るような表情で袋をふりました。
シャカシャカ、シャカシャカ、シャカシャカ。さっきとちがって軽やかな音がしています。
「もういいじゃろう。袋をあけてみてごらん」
袋の中から、黄金にかがやくようなたくあんができていたのでした。
「ワシが、これを店長に食べさせてやろうか」
「ほんとう? 店長のことばは、なおるよね」
リスくんとヤギさんは、歩き出しました。
「ワシのつけものは、ことばを直すことはできるが、その人の気の持ち方も大切なんじゃよ」
「じゃあ、ぼくも気持ち次第で、店長がこわくなくなって、ちゃんとはなせるようになる?」
リスくんは立ち止まってヤギさんをみつめました。
「そうとも。ワシのつけものは、しっかりきくんじゃ。あとはリスくんの気の持ち方じゃよ」
「そうかあ」
リスくんは、ヤギさんの顔をみあげました。