『ラッセのにわで』
エルサ・ベスコフ 作・絵
石井登志子 訳
徳間書店
この作品は私が社会人になってから、あるデパートの絵本コーナーで、表紙に惹かれて手に取った絵本です。鈴なりのリンゴの木の下で、リンゴの妖精と小さな男の子たちがやり取りをする美しい光景は、北欧の秋の訪れや、自然の恵みが人々の暮らしを豊かにしている様子が垣間見えるようで印象に残りました。
ストーリーも表紙の第一印象通り、当たり前だけど、忘れている何かを思い出させてくれる内容で、出会ってから数年後の今も、秋の訪れの時に読みたくなる作品です。
ある日、主人公のラッセはお父さんにボールをもらい、庭先で一人で遊んでいました。かえでの木にひっかけたところ、“くがつ”という名前のラッセと同じ年頃の妖精の男の子に声をかけられます。
くがつのお母さんは“なつ”、お父さんは“あき”という名前で、くがつくんは秋の訪れをつげる妖精だったのです。
くがつくんの後をついていくと、いつもの庭には野菜や果物、お花の妖精が行く先々にいるのです。ラッセが通りすぎると、「青いまま実を取ろうとした」と怒っている果物の妖精、「ラッセのお母さんにジャムにしてもらった」とお礼を言うベリー類の妖精、そして野菜畑に出ると、かかしのお蔭で、怖い動物や虫を避けて成長できた!とお礼の歌を歌う様々な野菜の妖精たちが舞っています。
しかし、ラッセのボールは次々と妖精たちに投げまわされ、なかなか返してもらえません。ラッセは優しいリンゴの妖精が歌ってくれた歌を聞いて、あることに気が付いたのです。その謎が解けた時、妖精たちは、通り過ぎるラッセに次々とボールをどこで見かけたか教えてくれるようになりました。
そうしているうちに庭を一周して、お花畑に来たとき、くがつくんが中心となって、野菜や果物、お花の妖精全員が集まって、秋の訪れを感謝する合唱が始まります。くがつくんが、ラッセにボールを返してくれた時、妖精たちもくがつくんも消えて、ラッセはまた一人で庭に立っていました。
そしてラッセがあることに気付いたご褒美に、リンゴが一つ落ちていました。その時ラッセは何を思ったのでしょうか?
野菜や果物の妖精たちが話す内容や歌の歌詞に、現代風に言うと「食育」の言葉が散りばめられている作品で、一つひとつの植物が美しい姿や食べごろになるまでの成長や食べ方を教えてくれています。
この作品は1920年、100年近く前にスウェーデンのエルサ・ベスコフによって描かれた作品です。実りの秋の訪れを、それぞれの植物の四季の試練や恵みを妖精の生活として、小さな子どもたちにわかりやすく解説した「元祖食育絵本」です。これからも読み継がれていくと思います。