「台所に運べ」
開け放たれた玄関の、広い三和土で、スニーカーを脱ぎ、策作じいさんについていく。
しぶい茶色の太い柱。
しぶい茶色の木の廊下。
明治とか、大正とか、昭和とか。
まるで知らない時代にタイムスリップしたような雰囲気だ。
天井も、高い。
上にも、周囲にも、空間が広がっている。
畳がいっぱい並んだだけの部屋の横には、また畳がいっぱい並んだ部屋があり、その奥には、大きなお仏壇がある。
お仏壇の前、白い布がかかった小さな台に、様々なお供え物や、色とりどりの花が並んでいるのを横目に通り過ぎると、次の間が台所だった。
昔ながらの家なのに、台所は、近代的だ。
知らない時代から、平成に戻ってきた感じ。
「ほれ、そこに」
策作じいさんの指示に従い、スイカをテーブルの上に下ろす。
「新聞紙をしいて、切れ」
「まな板じゃなくて?」
「しのちゃん、いや、ばあさんが言ってたんや」
厚くしいた新聞紙の上で切って、食べた後の皮は、新聞紙で包んでからビニール袋に入れて捨てるんや、と語る策作じいさんの顔が、ちょっと優しい。
「了解しました! うんとこしょ!」
ふたつに切って、ひとつは冷蔵庫にしまう。
残りを、サクサクサクと4等分。
「いただきます!」
「待て!」
「え、えーーーっ?」
「そんな恨みがましい顔をすなや」
「ぜんぜん、していませんが」
「わいは、してると思うけど、まあ、ええわ。そいつ、小そう切って、仏さんにあげてくれ」
「了解しました。・・・あの、・・・小さく切るのは、佐熊山策作さんの分ので・・・」
「ええ、ええ、わいの分で」