『ぴっぽのたび』
刀根 里衣 作
NHK出版
この絵本を見つけた時、表紙を見ただけで一目惚れしてしまいました。鮮やかな赤色の背景に、小さく描かれたカエルが一匹。まだ開いてすらいないのに、こんな気持ちになるのは、初めてのことでした。
ひとりぼっちのカエル「ぴっぽ」が、眠れぬ夜に羊に出会い、夢を探す旅に一緒に出かけます。5月の夢、6月の夢、7月の夢・・・季節の移り変わりとともに変化していく美しい風景の中を次々に訪れていきます。
そこで出会うのは、空を飛んでみたいというポピーの花、足があれば外を見たいという金魚、星たちと一緒に踊ってみたいというくらげたち。秋になれば、葉っぱをまっ赤に染めた森の木たちが「むかし、ここで あそんでいた 子どもたちに会いたいよ」と言います。ぴっぽと羊は、みんなの言葉に耳をかたむけます。
夢の中を旅するというのは、なんて心地よくて、楽しいのだろう。なんだか、ぴっぽはもう一人でも寂しくない気がしてきました。雪のふる12月の夢の中で、ぴっぽは羊を残してどんどん一人で歩いていくのですが・・・。
私は小さい頃、親に眠れない時は羊を数えなさいと教えられていました。しかし、大人になるにつれ、なかなか羊を数えることができなくなっていきました。どうしてもリアルな羊を思い浮かべようとしてしまい、手足はどんな形をしていたかな・・などと考えているうちに、逆に目がさえてしまうのです・・・。
子供の頃は違いました。真っ白な羊や、わたあめみたいなふわふわの羊、毎回いろんな羊を思い浮かべては、ここちよい眠りにつくことができました。もし私のように、羊を数えたことがある人がいたとしたら、いったいどんな羊を思い描いていたのでしょうか。この絵本に出てくる羊は、まさに素敵な夢まで導いてくれるような、そんな羊だなと思いました。
うれしいこと、楽しいこと、つらいこと、悲しいこと、何かを感じたときに開きたくなる本です。
子どもでも絵の美しさや、カエルや羊の可愛さを楽しめると思いますが、大人にとっては何度も手に取りたくなる、時間を忘れて眺めていたくなる、そんな絵本だと思いました。
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