ぼくたちは夏の道で(8/12)

文・朝日千稀   絵・木ナコネコ

8 山野辺さん

「突然消えてしまうなんて、反則だよパピ・・・」
山野辺さんは、しばらく、抱えた膝に頭を落としてすわっていたが、唇をぎゅっと結んで立ち上がる。
「パピ・・・」
この鎮守の森のどこかで、眠りについたはずだと、何時間も捜した。
けれど結局、ぼくたちは、パピのナキガラを見つけることができなかった。

「とりあえず・・・」
「とりあえず?」
「帰ろう」
「帰る?」
「うん。・・・前にも、こんなことがあったような気がするんだ」
「こんなこと?」

「パピがいなくなったこと。でも、その時は、帰ってきた」
「でも、今回は、パピ、自力では帰れないんじゃ・・・」
「以前も、自力で帰ってきたのではなくて、爆睡しているパピをだれかが運んできてくれたのだと思う」
「でも・・・」
でも、前回と今回は、状況がちがう。口には出せないけれど、ちがう。

「それって、いつ頃ですか?」
「う~ん、あれは、いつだったんだろ? よく覚えていない・・・。そんなこともあったんだという記憶があるような気がするだけで。でも、如月くんがぼそぼそつぶやいていたように、今回は、状況がちがうから」
「・・・また、やってしまった・・・。ぼく、時々、頭の中で想っていることや、考えていることが口から出てしまって」
「そうか、出てしまうのか」
「はい」

「気にしなくていいよ。状況はちがうとしても、とりあえず、帰ってみよう。母にも伝えなきゃいけないし」
「そうですね。では、送ります。あっ、でも、ぼく、山野辺さんの家、知らないので、案内をお願いします」

朝日千稀 について

(あさひ かづき)福井県福井市在住。3猫(にゃん)と一緒なら、いつまでもグータラしていられる

木ナコネコ について

(きなこねこ)福井生まれ、大阪住まい。福井訛りの謎の関西弁が特徴。猫と珈琲と旅が好き。