鎮守の森の、鳥居をくぐる。
森の中にいる時は気づかなかったが、太陽が高い位置にある。
強い陽射しが、地面にくっきりとぼくの影を映し出している。
「あ!」
けれど、前を行く山野辺さんに影は、ない。
「どうした?」ふり返る山野辺さんに、
「い、いえ、なんでも」ぼくは首をふる。
「そうか」と歩き出す山野辺さんのうしろで、見間違いかもしれないと目をこすってみたけど、状況は変わらない。
影がないということは・・・。
山野辺さんも、そうなのか?
パピと同じ、ユーレイなのか?
・・・だから、パピを抱っこできたのか・・・、ぼくは、パピの体に触れることさえできなかったのに・・・。
「そうだ。わたしは、パピと同じ、ユーレイだ。昨日、白状しそびれた」
山野辺さんが、ふり返る。
足を止めて、ぼくに近づく。
「それにしても、如月くん、そのクセ、なんとかしなさい」
「またまた、ぼく・・・、」
やっちゃったみたいだ。
「以後、気をつけます」
「そうだな。んっ、いや、やっぱり、気をつけなくていい。なんとかもしなくてもいい。その方がわかりやすい」
「ありがとうございます」
「ほめてはいないけど」
「で、山野辺さんは、いつからユーレイに?」
はっきりしておきたくて、聞いてみる。
というか、やはり、気にかかる。
「じつは・・・。自分がユーレイ・・・、つまり実体のない存在だって認識したのは、昨日の朝だった」
パピを見つけるんだ、という強い気持ちに突き動かされて捜しまわり、いろんな人に声をかけたが、だれも自分を認識してくれなかったのだと、山野辺さんは語った。
「無視されるだけならまだしも、わたしの体を通り抜けるようにして行ってしまったり・・・。家に帰って、母にも話しかけてみた。しかし、母にも、わたしの姿は見えないし、声も聞こえないようだった。とほうにくれた。・・・だから、如月くんが、声をかけてくれた時には、すごく驚いた。うれしくて、ちょっと、気分が高揚した」