「テツヤはチョコレートをもってる・・・。チョコレートは、ずっともってると とけちゃうから、なるべくはやく食べないといけない」
「チョコレート、食べられちゃうの・・・?」
「食べられるまえに、ダッカイするんだ」
その辺で食べてて、もしテツヤのママに見つかったら、つよしからおやつを取り上げたことがばれる。
だから、どこかにかくれて食べるはずだ。
この近くで、かくれてお菓子を食べられるところは・・・。
「うらにわ!マンションの、うらにわだ!」
このマンションは、うらに自転車を止められるんだけど、自転車を止めるところとマンションのうら口の間に、ちょっとだけすわれる場所がある。せまくて、走ったりあそんだりはできないけど、ひみつの何かをするにはちょうどいい。テツヤは、そこに行ったにちがいない。
ぼくたちは、マンションのうらにまわった。自転車にかくれてそうっと空地をのぞいてみると、やっぱりだ。テツヤが、チョコレートをにぎりしめて、コソコソまわりを見回している。
「ようし、つよし。おとりさくせんだ。いいか、まず、ぼくが・・・」
ぼくは、つよしの耳に、ヒソヒソと作戦を伝えた。こういう時のために、ぼくは、パパといっしょにエージェントの映画をたくさん見てるんだ。おとりさくせんも、この前映画で見たのだ。
「・・・いいな?」
作戦を言いおわると、つよしは、うん、とうなずいた。
「ようし、チョコレートダッカイさくせん、かいし!」
ぼくは、そうっと、自転車にかくれながら、テツヤの方へ近づいて行った。