あるところに、ガブリというわすれんぼうのオオカミがいました。
ガブリには、ヒーローとあこがれるオオカミがいました。
それは、小学校のきょうかしょにのっていた『オオカミと七ひきの子ヤギ』の中に出てくるオオカミで、ちえをしぼって七ひきの子やぎをぜんぶたべてしまったオオカミでした。
もしかしたら、みんなのしっているおはなしとは、ちがっているかもしれませんね。
ある日、ガブリは《そろそろこの森にもあきたなあ》と、たびに出ることにしました。
ずんずんあるいていると、青いやねのいえが見えてきました。
いえの中からは、にぎやかなこえがきこえてきます。
まどからのぞくと、なんと七ひきの子ヤギがあそんでいるではありませんか!
《こ、これは、えほんでよんだ、あのあこがれのおかたとおなじばめんじゃないか!》
ガブリのしんぞうが、きゅうにドキドキしはじめました。
《えーっと、えーっと。なんだったっけ? たしか、さいしょはトントンってドアをたたいて、こなで白くした手を見せるんだっけ? いや、あめだまをなめて、きれいなこえにするんだっけ?》
なにげなくドアに手をかけたとたん、ギーッ、なんとドアがあいたではありませんか!
「えっ?」
ガブリは、とつぜんのことにあせりました。
子ヤギたちはあそびにむちゅうで、おかあさんが出かけたときに、カギをかけるのを、すっかりわすれていたのです。
子どもたちは、いっせいにあそびをやめて、ひらかれたドアを見ました。
「あっ、おかあさんがえほんをよんでくれたときに出てきたオオカミだ!」
みんなびっくり。そうして、はしらどけいにかくれていた1ぴきの子ヤギが、オオカミにたべられたほかの子ヤギをたすけたはなしをおもい出しました。
いつも、「おまえたちも、この子ヤギのように、かしこいヤギにならなくてはいけません」と、おかあさんからきかされていたので、子ヤギたちにとって、そのとけいにかくれた子ヤギは、ヒーローでした。
すると、われ先に、はしらどけいにはいろうと、子ヤギたちが、大ゲンカをはじめました。
「わたしがさいしょに、はしらどけいのとびらをあけたのよ」
「なにいってるんだい。ぼくが一ばんさきにとけいに足を入れたんだぞ」
七ひきもいるのですから、それはそれはたいへんなさわぎです。
「コラコラ、じゅんばんにならばないとだめじゃないか」
あまりのうるささにガブリは、おもわず大きなこえを出してしまいました。
そのこえに、みんなビックリ。
「さあさあ、じゅんばん、じゅんばん」
そういうと、ガブリは一ぴきの子ヤギをはしらどけいに入れてやりました。その子ヤギがまんぞくすると、その子ヤギをおろして、つぎの子ヤギを入れてやりました。
七ひきぜんぶを、はしらどけいに入れてやったころには、ガブリはクタクタ。
子ヤギたちも、オオカミはこわいものとおしえられたことをすっかりわすれて、ガブリのまわりにあつまってきて、「あそんであそんで」と、うるさいのなんの。
ガブリは、あまりのいそがしさに、子ヤギをたべることをすっかりわすれてしまいました。
一人っ子だったガブリは、ともだちとあそんだことがありませんでした。
みんなであそぶのは、なんてたのしいんでしょう。