サワガニの理容室(5/6)

文・ねこはるさめ  

「音楽はお聞きになりますか?」
サワガニはハリネズミの針と針の間に手バサミをつっこんで、こわばったかたをほぐしながらたずねます。
「はい。でも明るい曲ってわけじゃなくて、落ち着いたふんいきのものが好きですね」
ハリネズミはさいきんお気に入りの曲を口ずさみました。
「あら、おきゃくさんもその曲が好きなんですね! わたしも近ごろは、その曲ばかり聞いているんです」
そう言うと、ハリネズミといっしょに口ずさみました。

いつしか楽しいおしゃべりは、ぼんさいの話になります。
ハリネズミは、ぼんさいについてあつく語りました。
「そう、ぼんさいは手を入れれば入れるほどこたえてくれます。ぼくは口べたですが、だまっていてもぼんさいとなら会話できるんです」
「なるほど、それはわたしの仕事と同じようなものかもしれませんね」
「ぼくも理容室をやれますかね!」
「それはおきゃくさまのどりょくしだいです。でも売れっ子になってもわたしのお客さまはとらないでくださいね」
二匹はうふふあははと笑い合いました。

ねこはるさめ について

和歌山県出身。ボランティアでオリジナル童話の読み聞かせ活動をしています。それ以外にも、少し大人びた児童文学テイストな作品を創作。人がいだき育む幻想を紡いだ短編を好んで書きます。 ホームページ:滑空舎 http://kakkusha.sakura.ne.jp/media/