週末、運動公園のバスケットコートでは、陽太が、ボールを地面に打つ音だけがひびいていた。木枯らしが時おりふきぬけ、陽太の火照った体を冷ましてくれる。
陽太は、深い息を吐くと、強く地面をけって上へと飛んだ。体が最高の位置に来たところで、手からボールを放つ。ボールは大きく弧を描き、バスケットネットに吸い込まれて、地面に落ちた。
「よしっ。もう1本」
陽太は、ボールを取って戻ると、もう一度ねらいを定めた。
朝からずっと練習をして、10本連続でゴールが決まった。ほっとしたとたん、お腹がぐうっと音を立てた
お腹につられるように、フェンスから外を見る。道の向こうの「うどん」の看板が目にとびこんできた。その目をわずかに下にそらした時、店の裏手にいた店主と目が合った。まだ若い店主は、大きな体を丸めて、いどむようにこっちを見ていた。
(今、12時くらいだよな。一番かき入れ時ってやつじゃないの?)
心でつぶやいた陽太の声が聞えたのか。
店主は、陽太をジロッとにらむと、店の中へ戻っていった。
(だから、客が来ないんだよ)
陽太は、うすい青に染まる空に立ち上る湯気を見た。昆布の匂いが鼻をくすぐる。
(腹へったなぁ)
陽太は、ぐうぐうと鳴るお腹をなでると、家へ帰った。
「運動公園の横のゴトウうどん、客少ないよね。まずいの?」
「そうね~、先代のころはおいしかったけど、急死されて、息子さんが跡取ってからはね。味がおちたし、お客さんも減ったよね」
陽太は、母親と昼食を食べながら、1年生のころにみた、ゴトウの今の店主を思い出していた。
弥生ウイングスのユニフォームを着て、楽しそうにバスケットをしていた笑顔が、頭に焼きついている。あこがれのチームの先ぱいだけに、ゴトウのことは、どうしても気になってしまう。
(いつも不機嫌そうな顔してさ。おれのバスケ、気に入らないなら、見なきゃいいのに。だいたい、あれだけの背丈があるならおれだって・・・・・・)
ハシをにぎる自分の小さな手が目に留まる。
(練習がんばっても、ダメなのかな・・・・・・)
陽太は、冷蔵庫の前に立つ母を、ちらっと見た。小さな背丈の母が、冷蔵庫の奥のものを取ろうと、必死に手をのばしていた。
(いっぱい食べたって、ダメなんだろうな)
陽太は小さくため息をつくと、ハシをおいて席を立った。