「うわあ、ネコだ!」
ハトは、あわてて、羽をばたつかせますが、ちっとも飛べません。
それもそのはず、左のつばさが、ベロンと、のびたままでした。つばさを傷めていたのです。
「お願い、食べないで! 食べないでくれ!」
チェシャはあきれて言いました。
「君を食べるだって? じょうだんじゃない」
ハトはきょとんとしました。
「食べないのかい? どうして? ネコは鳥を食べるものだろう?」
「それ、偏見(へんけん)だと思う。今どき、鳥なんか食べるネコはおくれているよ。少なくとも、育ちのいいネコじゃあ、ないね」
「へえ。じゃあ、あんた、育ちのいいネコなのかい?」
「そうさ」
チェシャはこしをおろして、胸を張りました。
「ぼくはブリティッシュ・ショートヘアっていう種類の、由緒(ゆいしょ)正しいネコなんだ。名前はチェシャ。コンピュータ・プログラマーのマイク・ヨハンソンさんがご主人だよ」
何だか、すごそうな言葉が並びました。
ハトは、わけもなく、ネコを尊敬してしまいました。
「じゃあ、ふだんは、いったい、何を食べているんだい?」
「ヨハンソンさんは、いつも、ぼくのために、最高級のツナ缶を用意してくれるよ。ツナ&チキン缶とか、チキン&シラス缶なんて時もあるけど、ぼくは、シンプルなツナ缶が一番、好きだな」
「それは、そんなにうまい物なのかい?」
「ああ、最高さ! それに比べたら、君たち、鳥なんか食べたら、ワッシュ、ワッシュ、ワッシュ・・・。口の中が羽だらけ。さぞや、じゃまっけだろうな」
チェシャは顔をしかめました。
「ところで、君は、こんな所で何をしているの? 仲間は、もう、とっくに、どこかで・・・。駐車場ののき下とか、アーケードの天井裏とか、そんな所で、仲良く、くっついて、おねむってころだろう?」
「ああ、そうなんだが・・・」
ハトはうつむきました。何か、訳ありのようです。
「いったい、何があったの?けがもしているようだし・・・」
「実は・・・」
ハトは話しはじめました。