ハトのオイボレ、最後の冒険(1/8)

文・伊藤由美   絵・伊藤 耀

「うわあ、ネコだ!」
ハトは、あわてて、羽をばたつかせますが、ちっとも飛べません。
それもそのはず、左のつばさが、ベロンと、のびたままでした。つばさを傷めていたのです。
「お願い、食べないで! 食べないでくれ!」
チェシャはあきれて言いました。
「君を食べるだって? じょうだんじゃない」

ハトはきょとんとしました。
「食べないのかい? どうして? ネコは鳥を食べるものだろう?」
「それ、偏見(へんけん)だと思う。今どき、鳥なんか食べるネコはおくれているよ。少なくとも、育ちのいいネコじゃあ、ないね」
「へえ。じゃあ、あんた、育ちのいいネコなのかい?」
「そうさ」
チェシャはこしをおろして、胸を張りました。

「ぼくはブリティッシュ・ショートヘアっていう種類の、由緒(ゆいしょ)正しいネコなんだ。名前はチェシャ。コンピュータ・プログラマーのマイク・ヨハンソンさんがご主人だよ」
何だか、すごそうな言葉が並びました。
ハトは、わけもなく、ネコを尊敬してしまいました。

「じゃあ、ふだんは、いったい、何を食べているんだい?」
「ヨハンソンさんは、いつも、ぼくのために、最高級のツナ缶を用意してくれるよ。ツナ&チキン缶とか、チキン&シラス缶なんて時もあるけど、ぼくは、シンプルなツナ缶が一番、好きだな」
「それは、そんなにうまい物なのかい?」
「ああ、最高さ! それに比べたら、君たち、鳥なんか食べたら、ワッシュ、ワッシュ、ワッシュ・・・。口の中が羽だらけ。さぞや、じゃまっけだろうな」
チェシャは顔をしかめました。

「ところで、君は、こんな所で何をしているの? 仲間は、もう、とっくに、どこかで・・・。駐車場ののき下とか、アーケードの天井裏とか、そんな所で、仲良く、くっついて、おねむってころだろう?」
「ああ、そうなんだが・・・」
ハトはうつむきました。何か、訳ありのようです。
「いったい、何があったの?けがもしているようだし・・・」
「実は・・・」
ハトは話しはじめました。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに