ハトのオイボレ、最後の冒険(2/8)

文・伊藤由美   絵・伊藤 耀

「ぼくの先ぱいネコ、ジャンが、去年の夏、死んだ時には、ヨハンソンさんはいっぱい泣いて、それから、動物のおそう式屋さんにたのんで、おそう式をしてもらっていたよ。人間世界のどこかには動物のお墓があって、ジャンはそこに入ったらしい。今でも、ジャンの写真がカップボードの上にかざってあるよ。ヨハンソンさん、ときどき、お花をあげてる」
「お墓ねえ・・・。あんたもお墓に入りたいのかい?」
「ぼくは、そういう時が来たら、そっと、家をぬけ出すことにしているの。ヨハンソンさんには悪いけど」
「それはまた、どうして?」
「あのね」
ネコは、クスリっと、笑いました。

「ぼくは、9回、生まれ変われるんだよ」
「へえ!」
ハトは、豆鉄っぽうを食らったような顔になりました。
「じゃあ、あんたは、もう、何回か、生まれ変わっているのかい?」
「うん。これで4回目」
「ほんとかい! で、前のことは・・・?」
「もちろん、覚えているよ」
ネコはにやにや。

「ヨハンソンさんに飼われる前は、アメリカにいたよ。バッファローを狩るたくましい人間たちの村にいたんだ。自然の中で、好き勝手に飛びはねていたんだよ。ピューマやオオカミに出くわして、危険もいっぱいだったけど、楽しかったな。
その前は中国にいてね。穀物倉をねぐらに、片っぱしからネズミを取って食べていた。ときどき、おいしい魚を、倉の持ち主のおじいさんにもらったりしてね。あの人生も悪くなかったかな。
何よりすごかったのは、最初に生まれた時だよ。ぼく、エジプトの神殿(しんでん)にいたの。エジプトの人々は、ネコを神様として尊っていたから、ぼくはとても大切にされてね。召使いが3人がかりで、ぼくの世話をやいていたよ。神殿の窓からは、真っ白にかがやいて、ピラミッドが見えていた。最高の食事に、ふかふかのねどこ。ルビーとラピスラズリの首かざりをして、黄金のいすにすわると、人間たちはひれふして、祈ったものだよ。でも、1年、生きたところで、ミイラにされちゃったの」
「ミ、ミイラ・・・!?」
「うん。乾物(ひもの)にされ、包帯でぐるぐる巻」
「ひえー!」
ハトは豆鉄っぽうを3つぐらいも食らいましたが、ネコの方はすずしい顔です。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに