「ある時、ぼくは、暖かくて暗い小部屋に連れて行かれたんだ。大好きないいかおりがして、ぼくは、たちまち、ねむくなってしまった。そこには神官がいてね。横になったぼくに長い呪文(じゅもん)を唱えかけてから、ぼくの耳に、こう、ささやいたの。
『おネコさま、これからあなたをミイラにいたしますが、ご心配はいりません。あなたはすぐに生まれ変わりますよ。そして、その先、8回、生まれ変わることができますよ』
その通りだったよ。ぐっすりねむった後に、ふと、目が覚めると、あの不思議な呪文が、遠くから、かすかに、聞こえてきたんだ。その方向へ走って行くと、うす暗いトンネルをぬけて、ぼくは中国に生まれたってわけ」
「何て話だ!」
ハトは、ポッポコ、首をのばしたり、縮めたりしました。
「それで、この次に死ぬ時にも、ぼくは、ヨハンソンさんの家を出て、一人になるつもりなんだ。何しろ、あの呪文の声ってすごく遠くて、耳のいいぼくでも、よほど集中していないと、聞きのがしそうだから」
「なるほどなあ。それにしても、ネコは、みんな、生まれ変われるのかい? それとも、君が特別なネコなのかい?」
「さあ? こんな話、ほかのネコとはしたことがないから。ほら、みな、いそがしいだろ。じゃれたり、えさを探したり、かの女を追いかけたりって。いきなり、『ねえ、君、これ、何回目?』なんて、とても聞けるふんい気じゃないんだ」
「そりゃ、そうだろうな」
「ネコは、生きている間、毎日がお祭。だから、自然と、死の話はタブーなんだ。それでもって、死ぬ時はそれぞれなのさ」