「ほんとに、ありそうにない話なんだが、私たち、ハトの間に、一つの伝説があるんだ。この世界のどこかに太陽王と呼ばれる鳥がいる。その鳥は、ふだん、太陽の中に住んでいる。ハトが死ぬ時に太陽王に食べてもらうと、そのたましいは太陽王の体に取りこまれて一つなる。そして、そのすばらしい鳥といっしょに、どこにだって飛んでいけるというんだ。太陽までだってね」
「いいじゃない、それ!」
チェシャはさけびました。
「君は太陽王のところに行くべきだよ。ぼくに食われるより、ずっといい! で、どこに行けば会えるの、その鳥に?」
「それが、このあたりじゃ、無理なんだ。町のど真ん中じゃね。森に行かないと、その鳥には会えないんだよ」
ネコは笑いました。
「君は知らないの? この町は、ぐるりっと、森に囲まれているんだよ。人間たちはここを『森の都』と呼んでいるくらいだもの」
「知っているよ、そんなこと」
ハトは、むっと、言い返しました。
「私だって、若いころは、仲間たちと、ずいぶん高くまで飛んだりしていたんだから。でも、太陽王らしい鳥に出会ったことはいっぺんもないし、このあたりで見かけたといううわさも聞かない。太陽王に会うには、人間のあまり住まない、もっともっと、深い森に行かないとだめらしいんだ。だけど、そんな深い森がどこにあるかなんて、私には見当もつかないんだよ」
「ふうん」
ネコは、少しの間、ポリポリ、耳をかいていましたが、「だったら、ぼくが調べてきてあげるよ」と言い出しました。
「調べるって!? どうやって?」
ハトが聞き返します。チェシャは目を、パチンと、つぶりました。
「まあ、まかせて。太陽王がいそうな森を探して、君に教えてあげる。明日か、あさってまでにね。待っていて。それじゃ、またね」
ネコはこしを上げると、ザザッと、現れた時と同じくらいあざやかに、植えこみから出ていきました。