ハトのオイボレ、最後の冒険(4/8)

文・伊藤由美   絵・伊藤 耀

「ネコだ!」
1羽がさけびました。
ハトたちは、いっせいに、飛び上がりました。
でも、年老いたハトはにげおくれて、ネコの前ですくんでしまいました。

「うわあ、おしまいだ!」
年老いたハトは目をつぶりましたが、何も起こりません。その代わりに、
「やあ!」
と、聞き覚えのある声が言いました。
目を開くと、チェシャが、にやにや、立っていました。
日の光の中で見ると、なんて美しいネコだったことでしょう。
こはく色のひとみに、つやつやした青紫色の毛なみ。

「つばさの方はだいぶよくなったみたいだね。だけど、昼間、見ると、君は、ほんとにきたないねえ! 羽毛、真っ黒で、ぼさぼさじゃない。ぜんぜん、食欲、わかないよ」
「ああ、もう、来ないかと思っていたよ」
ハトは、ほっとしながら、ぷっと、ふくれて言いました。

「ごめん、ごめん。ヨハンソンさんが、なかなか、パソコンの前をはなれないもんだから」
「パソコン?」
「ああ、人間が使う魔法(まほう)の板だよ」
「魔法の!?」
「すごい道具でね。人間はそれで字を読んだり、書いたりするんだ。字だけじゃないよ。絵をかいたり、その絵を動かしたりもできるんだ。音楽を聞くことも、映画を見ることだって。地図を調べるなんて、お茶の子さいさい!」
「・・・・・・・・・・・・?」

「それはそうと、おなか、すいてない?」
「すいてる!」
ハトがうなずくと、
「はい、おみやげ」
と、ネコはパンを、1つ、まるごと、ハトの前に差し出しました。
こんな大きな食べ物を独りじめにできるのは、ほとんど、生まれて初めてでした。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに