「ネコだ!」
1羽がさけびました。
ハトたちは、いっせいに、飛び上がりました。
でも、年老いたハトはにげおくれて、ネコの前ですくんでしまいました。
「うわあ、おしまいだ!」
年老いたハトは目をつぶりましたが、何も起こりません。その代わりに、
「やあ!」
と、聞き覚えのある声が言いました。
目を開くと、チェシャが、にやにや、立っていました。
日の光の中で見ると、なんて美しいネコだったことでしょう。
こはく色のひとみに、つやつやした青紫色の毛なみ。
「つばさの方はだいぶよくなったみたいだね。だけど、昼間、見ると、君は、ほんとにきたないねえ! 羽毛、真っ黒で、ぼさぼさじゃない。ぜんぜん、食欲、わかないよ」
「ああ、もう、来ないかと思っていたよ」
ハトは、ほっとしながら、ぷっと、ふくれて言いました。
「ごめん、ごめん。ヨハンソンさんが、なかなか、パソコンの前をはなれないもんだから」
「パソコン?」
「ああ、人間が使う魔法(まほう)の板だよ」
「魔法の!?」
「すごい道具でね。人間はそれで字を読んだり、書いたりするんだ。字だけじゃないよ。絵をかいたり、その絵を動かしたりもできるんだ。音楽を聞くことも、映画を見ることだって。地図を調べるなんて、お茶の子さいさい!」
「・・・・・・・・・・・・?」
「それはそうと、おなか、すいてない?」
「すいてる!」
ハトがうなずくと、
「はい、おみやげ」
と、ネコはパンを、1つ、まるごと、ハトの前に差し出しました。
こんな大きな食べ物を独りじめにできるのは、ほとんど、生まれて初めてでした。