ハトのオイボレ、最後の冒険(4/8)

文・伊藤由美   絵・伊藤 耀

ハトは夢中でつつきました。
その間、チェシャは、その場に、どっかり、こしをおろして、デッキに並んでいる仲間のハトたちに、にらみをきかせていました。
おまえたちにはひとかけらだって食べさせないぞ、と言わんばかりに。

手すりのハトたちは首を縮め、
「いったい、どうやって、オイボレはネコを味方につけたのかなあ?」
「やっぱり、偉大(いだい)な知恵者だったのかなあ?」
などと、小声でささやき合っています。

ハトの食欲が、一息、ついたところで、チェシャは言いました。
「待たせて、ほんとに、ごめん。何しろ、ご主人の目をぬすんでパソコンを開くの、大変だったんだよ。ご主人、ここ何日も、てつ夜続きで、ちっとも、机の前をはなれなかったから。やっと、ゆうべ、ヨハンソンさんがね入ってから開いたんだ。それで、町周辺の地図を見て、太陽王が出そうな森を探したんだよ」
「あんたは、どうして、そんなにすごいんだね。人間の道具を使いこなせるなんて!?」
ハトは、ほとほと、感心しましたが、
「どうってことないよ。とても簡単な道具だからね。キーボードをおすだけなの。ネコの手でもお茶の子」
チェシャは前足を上げて、ピンク色の手のひらを、パラパラっと、動かして見せました。

「それに、ほら、ぼく、何回か、生まれ変わっただろう。どうしてか分からないけど、生まれ変わるたびに、人間のことが、いろいろ、分かるようになってきたんだ。言葉や、文字や、考え方なんかもね」
『ああ、やっぱり』
と、ハトは思いました。
そして、
『ひょっとしたら、9回目に生まれ変わった時には、チェシャは人間になっているのかもしれないぞ』
などと、変な考えが思い浮かびました。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに