ぼくが感心していると、音がとまった。
とおもったら、おはしを一本にぎった人が出てきてしゃべり始めた。
なんで一本だけ?
〈この秋最大の台風が近づいています。今夜おそくから明日の明け方にかけて、大雨となるでしょう〉
「どしゃくずれがおきないといいけど」
お母さんがしんぱいそうにまどの外を見た。家のすぐうしろにある、小高い森の木たちがざわざわと風にゆれている。
「会社からもどってこれるかな」
スーツを着ながら、お父さんもまゆをひそめた。
でもぼくにはかんけいない。これからいっぱいかきまぜてもらって、ねばねばふわふわの納豆になるんだから。
ほのちゃんだって暗くなるころにはふとんの中。夜の雨なんてどうでもいいでしょ。
早くかきまぜて!
ぼくのおもいがつうじたのか、ほのちゃんはようやくタレをぼくたちの上にふりかけ始めた。
ほのちゃんは小さいのに、自分でふくを着たり上手にお茶をコップにつぐ。だから納豆のタレをかけるのも朝めし前のはずだ。
・・・おや、いっぱいテーブルの上にたらしたぞ。
でもいいよ。ぼくたちはタレが入らない方がよくねばるからさ。
「まあ、ほの。よそみしているから」
お母さんが「ほのちゃん」じゃなくて「ほの」ってみじかくよぶ時は虫のいどころがわるいんだ。冷ぞうこの外から聞こえる会話で、家のことがだんだんわかってきたからなんだ。
でもお母さん、しからないで。ほのちゃんはいいことをしたんだよ。