ビバ・ネバル!(1/6)

文と絵・高橋貴子

ぼくが感心していると、音がとまった。
とおもったら、おはしを一本にぎった人が出てきてしゃべり始めた。
なんで一本だけ?

〈この秋最大の台風が近づいています。今夜おそくから明日の明け方にかけて、大雨となるでしょう〉
「どしゃくずれがおきないといいけど」
お母さんがしんぱいそうにまどの外を見た。家のすぐうしろにある、小高い森の木たちがざわざわと風にゆれている。
「会社からもどってこれるかな」
スーツを着ながら、お父さんもまゆをひそめた。

でもぼくにはかんけいない。これからいっぱいかきまぜてもらって、ねばねばふわふわの納豆になるんだから。
ほのちゃんだって暗くなるころにはふとんの中。夜の雨なんてどうでもいいでしょ。
早くかきまぜて!

ぼくのおもいがつうじたのか、ほのちゃんはようやくタレをぼくたちの上にふりかけ始めた。
ほのちゃんは小さいのに、自分でふくを着たり上手にお茶をコップにつぐ。だから納豆のタレをかけるのも朝めし前のはずだ。
・・・おや、いっぱいテーブルの上にたらしたぞ。
でもいいよ。ぼくたちはタレが入らない方がよくねばるからさ。

「まあ、ほの。よそみしているから」
お母さんが「ほのちゃん」じゃなくて「ほの」ってみじかくよぶ時は虫のいどころがわるいんだ。冷ぞうこの外から聞こえる会話で、家のことがだんだんわかってきたからなんだ。
でもお母さん、しからないで。ほのちゃんはいいことをしたんだよ。

高橋貴子 について

(たかはし たかこ)米国・オレゴン大学国際関係学部卒業。外資系企業に勤めながら、子どもの本について考えています。子どもが作りたての小説を真剣な目で読んでいたのが最近の一番嬉しい出来事です。第3回講談社フェーマススクールズ絵本コンテスト講談社児童局賞受賞。