禁止されていると聞いたとたんに、お父さんの顔が険しくなった。
風向きのまずさを感じて、秋斗(あきと)は息をころす。このままじゃ、ヒナは親も巣もないところに、たった一羽で放り出されてしまうんじゃないだろうか。そうなりかねない。だってお母さんは最初から見すててしまった方がいいようなことを言っていたじゃないか。
「弱ったな・・・」
「お母さん、だからこれ、オレが育てるから!」
ほほに当てられていたお母さんの手をぐい、と引いて秋斗は主張した。当然、雷が落ちる。
「かんたんに言うんじゃないの! 命をあずかるのが、どういうことかわかってる?」
「でも、放り出したら、死んじゃうじゃないか!」
「そうよ。でもそれはおかしいことでは全然ない。自然の中で生きるからには、病気をしたり事故にあったりして死ぬのは当たり前なの。他の生き物に食べられることだってある。もしかしたら、秋斗にはまだむずしいかもしれないけど。人間が手を出すことは、その生き物を食べて命をつなぐはずだった生き物を殺すことかもしれないのよ?」
「・・・でも、こいつはオレが育てたい」
母の言いたいこともわかる気がしてきた秋斗は、少しだけ言葉をさがしてうつむいたが、もう一度はっきりと言った。
「・・・本当に世話をする気?」
「うん。ちゃんと野生に返すから」
「お母さんは手伝わないよ。このくらいの小鳥のヒナは、ほんのささいなことでも死んじゃう。そういう覚悟(かくご)本当にできる? 秋斗が投げ出したら終わりなんだよ?」