「あの向こうには何があるのかしら?」
アディは、高い空にたなびくすじ雲を見上げました。
「それに、お父さんやお母さんが食べ物をとりに行く海って、どんなところなのかな? ああ、こんなせまい村、早く、出ていきたいなあ」
けれども、弟の方は、あいかわらず、父ペンギンの下に、体を、半分、つっこんで、丸くなっています。
「トトったら、だめな子ね!」
アディは、はみだしているトトのおしりをつつきました。
「出てきなさいよ、トト!」
「痛いよ、アディ」
トトは、父ペンギンの下から、のこのこ、出てきましたが、すぐに、首をかたにめりこませて、ぶつぶつ、言いました。
「さ、寒い! ぼく、まだ、お父さんの羽の下がいい」
「弱虫ね、このくらいの寒さ! あたしなんか、気持ちいいくらいよ!」
「フハハハ!」
となりのペンギンの子たちが、アディとトトを見て、わらい出しました。
「みんな、見てみろよ、あのふたり! デコボコじゃんか!」
「ハハハ、ほんとだ! デカデカのアディに、チビのトトだ!」
デカデカアディに、チビのトト!
デカデカアディ! チビトト、トトト!
変なふしをつけて、子供たちがはやしたてます。
「何よ、あんたたち! ゆるさないから!」
アディはとなりの子供たちにとっしんして、おなかを、ドスンと、ぶつけました。
「あいたた」
ひとりがはねとばされて、ひっくり返りました。
「わあ、らんぼうだな!」
もうひとりも、パタパタ、にげだしました。
「あと、わらったのはだれ?」
アディは、ほかの子供たちにも、次々と、とっしんしていきます。
「わあ、やめろ、やめろってば!」
「お母さん、助けて!」
「やめなさいよ、アディ!」
とうとう、親ペンギンたちが、アディをつついて、追いはらいました。
さすがに、大きな親たちにはかないません。アディは、すごすご、父親のところにもどってきました。
「こら!」
父親のくちばしが、コツン!
はらのむしがおさまらないアディは、父親から見えないように、
「あんたのせいよ! あんたが弱虫だから!」
と、トトの頭を、コツン!
「ごめんよ、アディ」
トトはうなだれて、小さな体を丸めました。