9 ペネロープ
「夢でも見ているのかしら」
スクアノタカラが光を放ち始めると、オーロラが、どんどん、低く、下りてきて、アディのまわりを、緑色の光で取り囲みました。
その中で、音もなくドレスをひらめかせるオーロラの姫君たち。
「3人? 10人? ちがう、もっともっといる」
アディは、こわくて、さけびそうになりました。すきとおった少女たちの目の、何という冷たさ!
「決して、動いても、声を出してもいけないよ」
アディは、モルテンの言葉を思い出し、けんめいに、こらえて、じっと、立っていました。
すると、ひそひそと話す、姫たちの声が聞こえました。
「きれいな宝石。私のむねをかざるペンダントにふさわしいわ」
「いえ、私のかみかざりにこそ、ちょうどいいわ」
どうやら、姫たちの間に、宝石をめぐる争いが始まっているようです。
アディは耳をそばだてました。
「でも、ここに持ち主がいるわよ。若いペンギンだわ」
「持ち主とは言えないわ。その子、死んでいるもの。ほら、ちっとも動かない」
「死んでいても、持ち主は持ち主よ。だまって取るのはどろぼうよ。父君がゆるさないわ」
「父君は、はるか、北の空。ここまでは、見えやしないわ」
「そうよ、そうよ! 宝石は私のもの!」
「いえ、私のよ!」
オーロラたちは、あらそって、スクアノタカラに手を出しました。
とたんに、
「ああ、いたい!」
と、ひとりがさけびました。その手が、石にくっついたまま、はなれなくなったのです。
「たすけて!」
姫は、かなしい声で、さけびましたが、ほかの姫たちは、あわてて、にげていきました。