「あらっ、かわいいっ。頭のかっこうがマーポみたい!」
これが、初対面でのステッラの第一声だった。
マーポってなにか知っている?
マはマンダリーノ(ミカン)のマ。ポはポンペルモ(グレープフルーツ)のポ。このふたつをかけあわせて生みだされた新種がマーポってわけ。ミカンのようにあますぎもせず、ポンペルモのようにすっぱすぎもせず・・・色は赤味のたりないちょっと栄養失調的オレンジ色、これがマーポなんだ。ここにもらわれて来るまえのぼくのなまえはアインシュタインだったのに。
ずばり、ぼくのあたまはマーポみたいに小さくて、色もぱっとしない。体も小さくて、それが幼いときからのコンプレックスだった。けんかやってもずうたいの大きいのにかみつかれ、ひっかかれ、きずあとはたえなかった。うちべんけいでわるさして、それでいくらか、不満をはっさんさせた気分になるんだけど、やんちゃもドがすぎると、とんでもないことになる。
でもね、『いたずら』って一言でいっても、それは人間たちのかってなはんだんからで、僕らネコの行動にはれっきとした理由があることはわかってもらいたい。ネコは人間のように感情だけでこうどうする動物ではないってことも。
子どもはぼくのさいだいの敵だった。子どもとまともにけんかしても、いつも悪いのはネコのほうなんだもの。まえに住んでいた家の、あのちびっ子ミンモは、すごかった。勉強がきらいでかんしゃくもち。体がよわく、親はあまやかせっぱなしだったから、気にいらないことがあると、手当たりしだいものを投げつける、ぼくのシッポをつかんでふりまわす、ああ、ネコにとって、シッポをつかまれることが、いかにつらいことか皆さんはわかってくれるだろうか?
けっ飛ばされて、かいだんから転げおちたとき、こっちもかんにん袋のおがきれたんだ。ぼくはミンモの足の親ゆびをガブリとかんでやったのさ。ほおの筋肉がまひしてしまうほど思っいきりね。ちょっとやりすぎだったかな?と思ったけどあとのまつり。すっごい血が吹きだして、さあ大変、医者だ救急車だとおおさわぎになったけど、悪いのはぼくのほう。あげくのはて、ぼくはステッラの家においやられるはめになったってわけだ。
北イタリアの小さな町・・・。
冬がとってもはやく訪れてきて、春がおそくやって来る北の町。アルプスが毎日おがめるいなか町のはずれに、ネコのひたいくらいの庭がくっついている平屋・・・それがロメオ、ステッラとぼくのささやかな住み家だ。
旦那のロメオがタイヤの修理工で,ステッラは家で花よめ衣装をぬってるんだけど、彼女、けっこう、うでがたつらしくて、旦那のより収入が多い月があったりするので、いつもいばってるんだ。
「あんた、コーヒーが切れてるわよ! もう店が閉まるからすぐに行ってきてよ、さあ、早く、早くったら!」
なんてことは日常茶飯、かき入れ時などには、気が立つのもわかるけれどね。
「ローザ夫人にお正月あけには必ず納品してよ、春の結婚の支度で、年明けからどっと客がおしよせるんだから、ってしつこくいわれているの。きのうも電話でハッパかけてきたわ。でも、あたし3着もぬえるかしらん?あーあ、これじゃあクリスマスもお正月もないんだわ」