ラムネスイッチ(1/5)

文・円山なのめ  

公園には、ぼくのほかには、だれもいない。
風が強くて、砂ぼこりもすごい。
「今日は、春一番が吹くでしょう」
って、朝のニュースで言ってたっけ。
今日は、パパもママも、仕事でおそい日。
家に帰っても、どうせ、ひとり。
公園のかべ相手にボールをけっていると、くーっと、おなかが空いてきた。
ポケットには、大好物のラムネが1こ入ってる。
10円玉くらいある、特大のラムネ。
けんかする前に、ようちゃんがくれたんだ。

取り出してセロハンを開いたら、ビューッ。
風が吹きつけてきて、砂が目に入った。
目をこすったはずみに、コロリ。
ラムネは、地面に落ちてしまった。
「もう。なんだよ」
ラムネにも、ラムネをくれたようちゃんにも、ずんずん腹が立ってくる。
落ちたラムネを、ボールみたいに、けっ飛ばしてやろうとしたときだ。

円山 なのめ について

東京都出身。早稲田大学教育学部卒。一児の母。子育てしながら文筆活動、里山保全活動をしています。 旧姓:西沢での著書に『イボ記』(小学館)。表題作は女子大生の足指のイボをめぐる異色青春小説。併録の『おしえない』は黄面と呼ばれる異形たちの国に迷い込んだ人間が出会う不条理奇譚。現在は電子書籍ストアにて発売中(イボ記』)。 HP:なのめのめ