ラムネスイッチ(4/5)

文・円山なのめ  

「オウ、じゃないよ。スイッチ、どこ?  ラムネのスイッチ」
ラムネを押したら始まった、公園の回転。
もういちど押せば、きっと止まるはずだ。
でも、頭も、足も、もう、ふらふら。
ぐるぐるめまいで、ラムネスイッチがどこにあるのか、わからない。

「ハ。ハ。ハ」
「ねえ、スイッチ、どこ?  ストップの、スイッチ!」
「ノンストップ!ノンストーップ!アハ!ハハハ!」
そいつは笑いながら、ジャングルジムを下りてきた。
口が、大きなOの形に、がばっと開いた。
口の中には、とがったVの字が、サメのキバみたいにずらりとならんでいる。

ざーっ。
音をたてて、ぼくの頭から血の気が引いた。
気ぜつしそうになるのを、ぐっとこらえる。
気を失ってたおれたら、あのキバで、
「ヤミー!  ヤミー!」
って、ばりばり食べられてしまうかもしれない。
逃げたい。けど、体が動かない。
もう、だめかも。
アルファベットのおばけが、近づいてくる。
ぼくは、とうとう、目をつぶってしまった。

円山 なのめ について

東京都出身。早稲田大学教育学部卒。一児の母。子育てしながら文筆活動、里山保全活動をしています。 旧姓:西沢での著書に『イボ記』(小学館)。表題作は女子大生の足指のイボをめぐる異色青春小説。併録の『おしえない』は黄面と呼ばれる異形たちの国に迷い込んだ人間が出会う不条理奇譚。現在は電子書籍ストアにて発売中(イボ記』)。 HP:なのめのめ