ガラリととびらを開け、ラーメン屋に飛び込むと、店の中にお客は誰もいない――と思ったが。ずらりと並んだカウンターの真ん中でだれかがラーメンを食べていた。
「うわあ」
思わず叫んだ。
ラーメンを食っていたのは、なんと犬だったのだ。
柴っぽい感じの犬がカウンターに座り、前足ではしを器用に使い、ずるずるとメンをすすっていた。
「いらっしゃい」
カウンターの中からおじさんがぼくに声をかけた。
「何にしましょう」
ぼくは犬に目をやったまま、手にしたチラシを差し出して、
「無料ラーメンを・・・」
とつぶやいた。
するとおじさんが残念そうに言った。
「悪いねえ。ぼく二番目だったよ。ちょっと遅かったねえ」
「えっ、二番目?」
「そう。一番目はそっちのお客さん」
そう言っておじさんが犬を指さした。
「ええ!? この犬が一番?!」
犬がはしを止めてチラリとこっちをにらんだ。
おじさんが言った。
「そうだよ。犬でもお客さんに変わりないしね。ちゃんとチラシ持ってきたし。残念だったねボク。また明日チャレンジしておくれ」
がっかりしているぼくを、犬が「フッ」と鼻を鳴らして笑った。
店を出てからも、ぼくの心ぞうは腹立ちとおどろきのせいでドキドキしていた。