『まねっこでいいから』
内田麟太郎/作
味戸ケイコ/絵
瑞雲社
ある日、偶然ラジオで、内田麟太郎さんが継母との確執と和解について語られたお話を耳にしました。
もともと著者の物語が好きだった私は、本書を含めた数冊を探しました。インターネットを検索すると、本書への作者の紹介文がありました。
本書は、幼いころ虐待を受け、母親になったYさんとの出会いから書かれた本でした。親に愛された経験がないため、子どもの愛し方がわからず悩んでいた彼女は、相談した医師に内田さんの本を勧められます。
そしてYさんは、内田さんにメッセージを送ります。
「あなたを助けられるのは、あなたのお子さんです」
メッセージを受け取った内田さんは、Yさんにそう言葉をかけ、本書を書きました。
私はそこに、内田さんの包み込むような温かさを感じました。
その温かさは、そのまま本書にちりばめられています。
愛し方がわからず、抱っこができない母親に、娘は「まねっこでいいから」と抱っこをたのみます。母親は、ぎこちないながらも、娘と体を寄せ合います。そのとき、ふたりの体は「とっくん とっくん」と、心地よい音を奏でます。このハーモニーが少しずつ、親子を結びつけていきます。そして・・・。
内田さんの柔らかな語り口と、繊細で、表情豊かな味戸さんの絵。物語は、この二人の調和により深められます。本を閉じたあとには、きっと、ひだまりのような温かさに包まれているはずです。
傷つける行為は、一般的に、強い方から弱い方へと向かいます。そのため、家庭内では一番の被害者が子どもになることが多く、子どもに、心身ともに、深い傷を残します。
傷がいえないままに親になると、子どもとどう接したらいいかわからず、自身の親と同じように接してしまう場合があります。これが、連鎖と言われるものです。
しかし、連鎖は、その人次第で断ち切ることもできます。だれかに支えられて鎖を切る人もいますが、そうとばかりもいきません。
本書は、そんな虐待の連鎖に巻き込まれてしまった人たちに、「試してごらん」と、お手本をくれたのです。
わからなくてもいい。不完全な親でいい。でも、やってみてほしい。そして、あなたと、あなたの大事な人の命の音を感じて欲しい。
作者自身が痛みを乗り越えた上で紡がれた、大きなゆるしと愛がここにはあります。
本書を読んだ人たちは、きっと連鎖を断ち切れる。私は、そう信じます。
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