スゥはお城の庭に植えられました。
しかし、約束とは違って、いつまでたっても森に返してはくれません。
「お願いです。僕を森にかえしてください」
スゥは何度も王様に頼みましたが、王様は彼を決して手放そうとしませんでした。
けれども、スゥはあきらめませんでした。
「ライラが遠くからでも分かるように、僕がもっと大きくならないと」
苗木だったスゥの幹は次第に太くなり、枝も長く伸びました。
そして、豆粒ほどの赤い実も丸々としたリンゴの様に大きくなり、たくさん実りました。
「この実、とってもおいしい!」
「この実を食べたら、おじいちゃんの足が治ったんだよ!」
街のみんなにそう言ってもらえることがとてもうれしくて、スゥはいつも微笑んでいましたが、その中にライラの声はありませんでした。
「もっともっと、大きくならなきゃ」
さびしくても、苦しくても、彼は青々とした葉とたくさんの実を実らせました。
春も、夏も、秋も、冬も、ライラに会える日を夢見て、一生懸命に実らせ続けました。
「スゥ、帰ってこないな・・・」
ライラは、ずっとスゥを待っていました。
のどがかわき、小川へ向かうと、一羽の雄鳥が羽を休めていました。
ライラに気づいた雄鳥は、彼女に話しかけました。
「やぁ、キミも龍髭鳥かい? どこから飛んで来たの?」
「私は飛べないの」
「どうして?」
「飛び方がわからないの。私、小さい頃に仲間とはぐれたから」
「鳥なのに?」
「・・・」
雄鳥は彼女をかわいそうに思い、
「僕らは鳥なんだよ? それもとびきりの龍髭鳥。龍髭鳥が空を飛べないなんて悲しいよ、僕が飛び方を教えてあげるよ」
と、ライラに空の飛び方を教え始めました。
「ほら、まず、こうして羽をあげて上下に振るんだ」
言われるまま、ライラは見様見真似で羽を動かしてみましたが、飛べません。
「できないわ」
「あきらめないで」
「もういいの」
雄鳥はあきらめて戻ろうとした彼女を引きとめました。
「最後にもう1回だけ。そう、そこで思いきり地面をけり上げる」
身体がわずかに浮き上がりました。
「私、飛べてるの?」
「そうとも、飛べてるよ!」
ライラは空高く、ぐんぐんと上がっていきました。
「わぁ、気持ちいいね」
初めて見たその景色は、自分が鳥であることを彼女に思い出させました。
「そうだろ。世界はもっと広いよ。ついておいで」
そして、ライラと雄鳥は飛び去って行きました。