『ドーナツなんかいらないよ』
マーク・アラン・マタマティー 作
徳永里砂 訳
国書刊行会
僕は、この絵本を、CDでいうところの、ジャケ買いのようにして購入した。
ごちゃごちゃのイラストの表紙と、決して上手とは言えないが繊細な中に力強いタッチの絵に、魅力を感じたのを今でも覚えている。
まずページを開くと、全ページが白黒のイラスト。1ページごとに広がる、シューレアリズム&ナンセンスの世界!! 世界!! 世界!!
その白黒の世界の中に、ぎっしりと書かれた街中のイラストや、キャラクター(街の人々)が個性的なのである。
例えば、鳥なのに顔がゾウだったり、馬だったりとか、街中の看板の言葉がユニークだったりと、1ページに数十分もクギづけになってしまうくらいの、魔法にかけられたような感覚に陥る、そんな本なのだ。
物語は、家族とすてきなお家に住み、たくさんの友だちもいるのだが、満足できないでいる、ドーナツ好きの主人公の少年サム。
ある日、たくさんのドーナツを探しに、大きな街に三輪車で出発することになるのだが・・・。
街に出たものの、サムは、ひとつもドーナツを見つけることができないでいる中、荷車にドーナツをいっぱい乗せたビックファザードさんという不思議なおじさんと出会う。
サムはドーナツ集めをしているという、ビッグファザードさんとを手伝うことになる。
二人が、ドーナツ集めをしている途中で、悲しいおばあさんが「愛があれば、ドーナツなんかいらないよ!」と叫ぶのだが、サムには響かない。
サムは、どんどんと仕事を覚えていくが、そのうち、プレッツエルを集めているアニーという女性に出会う。
ビックファザードさんとアニーは恋に堕ち、二人はプレッツエルのお店を開くため、サムにドーナツ集めの仕事を全部譲る。
サムは、大都会の中で独りぼっちでいることに気づき、独りぼっちでのドーナツ集めも楽しくないことにも気づき、落ち込んでいる中、悲しいおばあさんが、ある事故に巻き込まれる。サムは考えに考え、ある行動に出る・・・・・。
本書の作風や内容などは、子供たちにどのくらい伝わるのかは分からないが、子供の感性には必ず届くものだと、僕は感じている!!
定番の絵本にも飽きたという方にも、おすすめの本だ。
最後に、この本の奇妙な人々、街中から溢れるナンセンスなイラストは、欲望が蠢いている大都会を、作者の「心の眼」で見た風景なのかもしれない。
そして、一番の驚きなのは、出版されてから約40年近くも経った、絵本だということ。
本当に大切なもの、すてきなものは、何十年経っても変わらないということ。
複雑に見えるものも、実は、単純なメッセージがあるということにも気づかされた一冊。
単純なものも、僕ら自身が、勝手に、複雑にしているのかもしれない・・・。
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