『花さき山』
斎藤隆介 作
滝平次郎 画
岩崎書店
物心がついた時には、家にこの『花さき山』の絵本があり、私はいつも絵本の中で美しく咲く花の絵を見ていました。
母に買ってもらった『うさこちゃん』の絵本に混じって、この絵本は少し大人っぽく、子ども心に内容が難しかった記憶があります。
後に、この絵本は母が買ってきたものではなく、たぶん祖母が買ってきたのだろうと最近になって母が話をしてくれました。
たしかに、昔話風の内容で、切り絵で表現されているこの絵本は、明治生まれの祖母が選びそうな本だと思いましたし、妹が生まれて、私が赤ちゃん返りをしないように読んでくれたのだと感じました。
主人公である10歳のあやは、祭り用に煮しめにする山菜をとりに山に入り、迷ってしまいます。そこで一面に咲くきれいな花を見つけ、老婆に出会います。老婆はその花は、ふもとの人間が、優しいことを一つすると一つ咲く花だと言って、あやが昨日咲かせた花を教えてくれます。それは、祭り着を二人分買えない親に、自分の着物はいらないから、妹の分だけ買ってあげてと言って、辛抱してせつなかった思いが咲かせた赤い花でした。
自分のことより人のことを思い、涙をいっぱいためてしんぼうすると、その涙がつゆになり、そのやさしさとけなげさが美しい花を咲かせます。
自然災害が多い日本において、日本人が持っている辛抱強く、思いやりがある性分は、昔からこの『花さき山』のような教えに基づいているものだと思えます。
大きな台風や地震で被災してもパニックを起こさず、自分自身も大変なのに、他人を思いやっている姿、これが世界に誇れる日本の姿だ!といえます。そうすることで、日本人は世代を重ねてきたのでしょう。
「今、山に花が咲いたな」と想像することで、他人にやさしくなれる主人公あやのような人間になってほしいと、祖母は私に思いを込めたのかもしれません。(ナークツイン・荻原慶子)
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