幼年童話の書き方13 ~第2部「名作に学ぶ」その2

その2『キツネのまいもん屋』

『キツネのまいもん屋』 富安陽子・さく 篠崎三朗・え 新日本出版社 1998年

ワクワクドキドキの楽しい展開

今回は和製ファンタジーの名手と呼ばれる富安陽子さんの本です。この本も大阪弁ですが、大阪弁にも地域差がありまして、こちらは大阪の北部でしょうか。舞台は里山です。

町はずれでキツネの子と出会ったひさしは、せんべいを半分わけてやって、山の麓にあるキツネのまいもん屋(駄菓子屋)に連れていってもらいます。ひさしはそこで、子ギツネたちといっしょにくじを引いて……。

話がどんどん膨らんでいって素敵な結末も用意されていて、ワクワクドキドキの楽しい展開ですが、いいのはそれだけじゃなくて、このお話は人間とキツネたちとの関係性が温かくて、読後感がさわやかなんですね。

例えば、キツネの子と出会った場面はこんなやりとりで始まります。
「おせんべ半分くれたら、ええとこへつれてったるのになぁ」
キツネがわざと大きな声でひとりごとをいったので、ひさしはつられてききかえしました。
「ええとこって、どこやねん」
「そりゃ、おせんべたべてからでなくちゃ、おしえられへん」

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野村一秋 について

(のむら かずあき):1954年、愛知県に生まれる。教員として小学校に勤務した経験のもと、子どもの目線に立った作品を生み出している。日本児童文芸家協会会員。日本児童文学者協会会員。日本文藝家協会会員。主な作品に『天小森教授、宿題ひきうけます』(小峰書店)、『しょうぶだ しょうぶ!』(文研出版)、『ミルクが、にゅういんしたって?!』『4年2組がやってきた』(共にくもん出版)などがある。