いつもの身長140cmの体にもどったとき、子どもケータイがブルッとふるえた。
「ハチくん、きこえるかね」
「はい、飯田橋博士」
「カマノドンはよくたいじしてくれた。ごくろうさまといいたいところだが、また出動だ」
「今度は何が出たんですか?」
「セミラーという、セミのかいじゅうがナラ山であばれているらしい」
「ナラ山に? それは大変だ」
仲良しの動物たちが心配だ。
空は飛べないけれど、ぼくはのぞみ号と同じスピードで走れる。
ナラ山まではひとっぱしりだ。
「ハチくん、セミラーは羽ばたくと、なんでも切りさく力がある。羽に気をつけろ」
なんでも切りさくだって?
ぼくの体は特別な合金でできているから、どんなナイフでもどんな光線でもびくともしない。まさに最強。人類が待ち望んだヒーローなのだ。まってろ、セミラー!
と、そんなことを思っているうちに、ナラ山に着いてしまった。
弱くなりたい(1/4)
文・中村文人 絵・中野愛久美