心の中のいとおしさに出合う

世界のまんなかの島書影世界のまんなかの島~わたしのオラーニ~
クレア・A・ニヴォラ 作
伊東晶子 訳
きじとら出版

広島市中区にある袋町公園のそばに、「えほんてなブル」という児童書専門の本屋さんがあります。こぢんまりとした、とても可愛らしい本屋さんです。以前から気になっていたのですが「機会があれば」などと思ううち、なかなか足を運ぶことはできないでいました。

今回のレビュー執筆に当たり、あらためて絵本を手に取る中で、もっともっと絵本に近づきたい、と思うようになり、故に、ついに念願だった気になるお店へ。
ビルの2階にあるそのお店の小さな扉は、まさに「絵本との出合いの扉」でした。
お店の方はとても親切で、丁寧に絵本選びを手伝ってくださいました。
ご紹介する『世界のまんなかの島~わたしのオラーニ~』は、そうして出会った本です。

タイトルにある「オラーニ」とは、作者クレア・A・ニヴォラさんの父親のふるさと、イタリア・サルデーニャ島にある、小さな村の名前です。
迫害を逃れるため、アメリカへ渡ったクレアさんの父親は、アメリカ生まれの「わたし」(クレアさん)を連れて、たびたび、ふるさとのオラーニを訪ねます。
幼い「わたし」が、見て、聞いて、体験して、感じた「オラーニ」が、愛情あふれる絵とともに、ここで語られています。
読み進むにつれ、まるで自分自身も、オラーニ村の太陽の下にいるような、路の角を曲がって村の広場へ向かっているような、イチジクの木の下でいとこたちと語らっているような、お祭りの馬が駆けぬけていくのを間近で見ているような、近所の女の人たちが焼くパンのにおいに包まれているような、丘の上でオラーニの風に吹かれているような、そして、村のおじいさんの「死」に立ち会っているような、そんな気分になりました。

絵本の最後のほうの場面には、オラーニからニューヨークに帰った「わたし」が感じることが書かれています。それは温かく懐かしく何だかちょっぴり切なくもあり、読み終わった後には、いつの間にか人々やふるさとへの「いとおしさ」で心が満たされていました。

「オラーニ」で、「わたし」が経験したこと、出会った人々、風景、空気、それらは、時代や年齢を問わず、その人なりのさまざまな形で、かけがえのない宝物のように、心の中に「ある」ものではないだろうかとそんなことを思いました。
何度も読み返したい本です。細かなところまで描き込まれた絵は、爽やかで心地良く、見飽きません。ページをめくる度に、心の中にある「わたしのオラーニ」に出合えるような気がします。世代を超えて読み継がれてほしい一冊です。

◆購入サイトはこちらから → 世界のまんなかの島~わたしのオラーニ~

北森みお について

小説、童話、脚本など執筆。日本児童文芸家協会研究会員。 主な作品に『星夜行』(パロル舎/広島本大賞ノミネート)、『時の十字架』(鉱脈社/Qストーリー大賞優秀賞)、『ひろしまの妖怪』(中国新聞『おはなしばこ』掲載)、『北極星の夜』(『日本児童文学』掲載)、『深海魚のユメ』(国木田独歩記念事業文学祭入賞)、『T字橋の欄干」(広島市民文芸一席入賞)、『つばさ屋』(ラジオドラマ脚本)『星夜行-約束のリボン-』(ラジオドラマ脚本)など。 電子書籍に『美しいかけらの物語-ワニと薬指-』(ティアオ)、 『ホテルねこ堂』(星の砂文庫/童話と絵本コンテスト審査員特別賞) などがある。 近年作詞も手がけ、提供した楽曲に「風のソネット」「ロマンチカ」(作曲、歌はメロディストの田中ルミ子さん)などがある。