こんな悲劇があったことを忘れてはならない

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犬やねこが消えた
井上こみち 著
ミヤハラヨウコ 絵
学習研究社

小さい頃から犬やねこがいつもそばにいた私にとって、この本は衝撃的で、出版されると、むさぼるように読んでいたものである。
2008年に出版され、某紙の書評で紹介したことがあるが、戦後70年を迎えるにあたっていま一度、皆さんに読んでいただきたく紹介する次第である。

先の大戦で兵器を作るため、人々が鍋や釜を供出したことはよく知られた事実である。ところが、家族の一員だった犬やねこが供出させられたことを知る人は少ない。
本書は、戦争で引きさかれた人と動物の悲しいできごとを、ねばり強い取材でまとめあげたノンフィクションである。

戦況が悪くなってきた1943〜44年頃、軍部は家庭犬を供出せよとの通達を出した。
その目的は、
・寒い戦地の兵士のための毛皮をつくる
・狂犬病をなくす
・空襲時に犬が暴れ出す危険を回避する
というものであった。
この事実を得た著者は、取材を急いだ。なぜなら犬やねこの供出体験者はみな高齢だったからだ。
日本各地への取材は続く。しかしその取材は、体験者から悲しい思い出を聞き出すつらいものであったことは想像に難くない。

愛猫を供出したとたん、断末魔の声を聞いた人、供出された犬・ねこを撲殺する役目を負った人、供出から犬を守った人、それぞれの証言を読む度に、大人も子どもも滂沱(ぼうだ)の涙を流さずにはいられないだろう。そしてこれらの証言から、あらゆる命を奪う戦争の恐ろしさを感じずにいられない。

戦後70年を迎え、いままで我が国が守り続けてきたものが崩れようとしている。そんな時だからこそ、この作品を通して、いま一度、命の尊さや戦争のおろかさについて、親子で話し合う機会をぜひ持ってほしい。
もちろん、動物が供出されることなど、もうないと信じたいが、戦争は人を狂気にかりたてることを忘れてはならない。
著者はいう。もの言えぬもの、弱い立場にあるものが安心して暮らせる世の中であってほしいと。人と動物をテーマにノンフィクションを多数手がけている著者の、重みのあるメッセージを多くの読者に受け取ってほしい。(2015年7月記)