ある春の日のことだ。
ぼくは、しくしく泣きながら目覚めた。
夜中だった。
おだやかな夜だ。とても静かで、どこかさみしい。
春がそこかしこにいるのが感じてとれた。ちょっと冷んやりする、ちょうどいい温度。春の始めの、夜の温度だ。
部屋の窓は真夜中の群青色(ぐんじょういろ)に染まっている。外の木立がゆれているので、群青色はうすくなったりこくなったりをくり返していた。カーテンは両端に結われている。
あれ? ぼく、泣いているの?
はじめはそう思ったのだ。そしてその理由がわかったとき、ぼくは唇をすぼめ眉を寄せ、もう一度小さく、えーんと泣いた。
べにちゃんの夢を見た。
べにちゃんが悲しみのどん底から、立ち直ったときのこと。
ぼくがべにちゃんを、いとおしくて、守ってあげたくて、特別な存在になったときのこと。べにちゃんがネクタイのことを嬉しそうに話す日には、必ず決まってこの夢を見るのだ。