「落ちてきちゃった」
「違う。降りてきたんだ」
風船がふわふわと落ちてくるようなスピードで、お月さまはお面屋までやってきました。
「いらっしゃい」
お月さまは何も言いません。
空中に少し揺れながら浮かんでいます。
大きさは人間の顔と同じくらいでした。
あまりにもびっくりして口を開けたまま声もでないトモちゃんの横で、お面屋が聞きました。
「今夜はどれにしましょう」
お面屋の問いに、お月さまは少し首をかしげるように自分を傾けながら、お面のたなの前を行ったり来たり、何度もくり返しました。
ずいぶん迷っているようです。
「・・・これなんかどう」
トモちゃんは恐る恐る声をかけました。
お月さまがまるで振り向いたかのようにぐりんとまわりました。
トモちゃんはじっと見つめられているような気がしました。
目も何もないのに。そしてゆっくりとトモちゃんが指さしたお面のところへ飛んでいって、こつんとお面を一つつっつきました。