ふいに、熱い風が、かおにかかった。その風の、まぁくさいこと。
「うえっ。なまぐさい!」
はきそうになった。もんどりうって起き上がると、目のまえには・・・。
毛むくじゃらの顔に、するどい目。耳までさけるような口の中には、きいろいキバがのぞいている。本物を見るのは初めてだけど、これはまさか・・・。
「オ、オオカミ・・・?」
毛むくじゃらの顔が、こっくりとうなずいたように見えた。
(うそだろ。ぼく、オオカミに食べられちゃうの? うわ、いやだな、痛そう・・・。どうせ死ぬなら、もっと楽な死に方がよかった。ああ、まだ、ゲームクリアしてないのに。レアキャラ、やっと手に入れたのに。こんなことなら、ママに怒られても、宿題より先にゲームしておくんだった。何で、宿題なんかしちゃったんだろ・・・)
男の子がしきりに、10年たらずの、短い人生をふり返りくやんでいると、まるでその心の声がきこえているみたいに、オオカミが口をひらいた。
「おれも、おまえを食いたいのは、やまやまなんだ。何しろおれは、もう3日も、えものがとれなくて、はらぺこでな。ああ、食いたい。食いたいなぁ。だが、おまえは、子どもにしちゃあ、やせてるな。ダメだぞ、もっとたっぷり食って、太らなきゃ」
まるでパパみたいなことを言ってくる。