「そんなホネばっかりじゃ、おれがおなかいっぱいにならない。どうだ、もっと、たっぷり食って、太ってみちゃあくれないか。そうすれば、おれのおなかも満足だ」
ずいぶん、勝手なことを言うオオカミだ。
食べられるために、太れだなんて。男の子は少しはらをたてて、オオカミに言った。
「太れったって、食べるものが何にもないんだよ。リュックの中の食べものは、みんな食べちゃったし。でなきゃ、こんなところで、はらぺこでたおれてるわけ、ないだろ」
オオカミは、ふしぎそうに首をかしげた。
「食べるものがないだって?何でないんだ?」
「だから、リュックの中のものを、みんな食べちゃったんだってば」
「だったら、他のものを、食べればいいだろう」
まったく、このオオカミは、何にも分かってないんだから。男の子はためいきをついた。
「あのねぇ、ぼくは道にまよってるんだよ? まず、この森をぬけ出て、町に行かなきゃ、なんにも食べられないじゃないか」
「べつに、町に行かなくたって、食べものはそこらじゅうにあるだろ」
「どこにあるの? こんな森の中に、コンビニとかマックとか、ある? あるなら、つれてってよ。おこづかいなら、持ってるから」
男の子が、なげやりに言うと、今度はオオカミが、やれやれ・・・とためいきをついた。
「あきれたもんだ。お前さん、こんなに実り豊かな森の中にいて、食べものを探せないのか。まったく、人間ってのは・・・。しょうがない、おれがお前を、太らせてやる」
言うなり、オオカミは、男の子のシャツのえりを、ひょいとくわえ、歩き出した。男の子は、なすすべもなく、ブラブラとオオカミの口にぶらさがって、運ばれて行った。