若くて血気盛んなアドニスは
自分を愛する女神の忠告も聞かずに
狩りにでかけてしまいました・・・
(ギリシア神話「アドニスとアフロディテ」より)
むかし、凍える山おろしもじめつく潮風もとどかない、美しい野原での話です。
一面の花むしろを分けて流れる澄んだ小川のほとりに1本の大きなユリの木が立っていて、幾千もの花々が、年中、風に吹かれて、カラコロリン、カラコロリンと、きれいな音楽を奏でていました。
野原にはたくさんの生き物たちが暮らしていましたが、中に、とても食いしん坊のハナアブがいて、ある日、このユリの音楽堂に迷い込んできました。
「しまったな。甘い蜜を求めて夢中になっていたら、こんなところに出てしまったぞ」
ハナアブはきょろきょろとあたりを見回しました。大きな白いユリが重なり合うように咲いていて、甘い香りでむせかえるようです。
「ここは女神様が大切にしているって場所だ。おいらが長居できるところじゃないぞ。さっさと出なくちゃ」
ハナアブは、あわてて、帰り道を探し始めました。ところが、じきに、花の間で忙しく働いているクモを見つけました。