「おや。あいつ、何をやってるんだろう」
いささか飛びつかれてもいたので、ハナアブは近くの葉っぱにちょこんととまると、羽の手入れをしながら見物し始めました。
クモの方は、てんで気がつかない様子で、枝から枝へと張り渡した足場の上で、長い手足を巧みに使い、どんどんと布を織っていました。
その美しさにハナアブは息を呑みました。何と、クモは降り注ぐ柔らかな太陽の光から糸を紡いで、幾百通りにも輝くまばゆい布地を織り上げていたのです。
「ううん、すごい。おいら、今まで、こんなきれいな物を見たことがないや」
ハナアブはブーンと飛び上がると、布地のまわりを、ブンブン、飛び回わり始めました。
「いやあ、なんてすごいんだろう。それにしても、いったい、だれのために作っているんだい、君は。これほどの物を」
ずっとそっぽを向いて作業をしていたクモが、初めてちらりとハナアブを見ました。
「女神様のためだ。もうじき女神様の結婚式だろ。これはそのための花嫁衣装なんだ。さあ、分かったら、さっさとあっちへ行ってくれ。仕事の邪魔だ」
答える間も、クモは少しも手足を休めません。
「ふうん。道理でなあ。いやあ、すごい、すごい」
ハナアブは何度もうなずきました。