楽園のクモ(2/3)

文・伊藤由美   絵・岩本朋子

そんなことがあってから、ハナアブは、毎日、欠かさず、クモのところにやって来るようになりました。
そして、花畑であったことを、クモに、以前よりもたくさん、おもしろ、おかしく、話すようになりました。
だんだんと、クモも、時には足場を離れてハナアブのとなりに座り、話に聞き入ったり、ほかの虫たちの暮らしぶりについて尋ねたりするようになりました。
楽園のクモ2 ハナアブ

花嫁衣装の仕上がりも順調でした。白い花々と甘い香りに包まれ、かすかな風にも、ふんわり、そよぎ、色合いと輝きを刻々と変えるさまは、一瞬たりとも目を離すのが惜しいほどでした。
でも、その頃になって、ハナアブは、ときどき、ふと、奇妙なことを考えていました。
『女神様は、ほんとうに、この衣装がお気に召すんだろうか・・・』
きらびやかで豪華この上ない女神の花嫁衣装。でも、ハナアブは、そこに、何か、とても大切なものが欠けているような気がしてならなかったのです。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

岩本朋子 について

福井県福井市出身。同市在住。大阪芸術大学芸術学部美術家卒。創作工房伽藍を主催。伽藍堂のように何も無いところから有を生むことをコンセプトでとして、キモノの柄作りからカラープランニング等、日本の伝統的意匠とコンテンポラリーな日用品(漆器、眼鏡、和紙製品等)とのコラボレーションを扱い、オリジナルでクオリティーの高いものづくりを心掛けている。また、高校非常勤講師として教えるかたわら、福井県立美術館「実技基礎講座」講師を勤める。