ふと、クモは、だれかが自分を見下ろしていることに気がつきました。
「ああ、女神様・・・」
女神は黒づくめの衣装を身につけて、たいそう、やつれた様子でしたが、その目は大きく見開かれ、きらきらと、雪に照り映えていました。
女神は言いました。
「クモよ、あの人が蘇(よみがえ)りました。もうじき、ここへ帰ってきます。頼んであったものはできていますか」
「はい・・・。そこに・・・」
クモはやっと答え、枯れ木に下がった花嫁衣装を弱々しく指さしました。女神はそれを手に取り、しばらく眺めていましたが、やがて、満足そうにうなずきました。
「良い出来映えです。ご苦労でした」
それから、衣装を身にまとおうとしましたが、ふと、手を止めて、クモを見つめました。
「クモよ、私は改めておまえに礼を言わねばなりません。あきらめることなく、最後までこれを織り続けたおまえの勇気が、あの人を私のもとへ呼び戻してくれたのです。おまえの機織る音は冥王の心を揺さぶり、黄泉(よみ)の門をも開かせました。おまえの成し得たことは天上でも地上でも、この世界が続く限り、永遠に語り継がれることでしょう」
言い終えると、女神は、さっと、衣装を身につけました。たちまち、まばゆい光に包まれて、女神は若々しい乙女の姿になりました。雪景色の中に紅色のほおが大輪の花のようです。