その人々の中に、おそろしい顔でにらんでいるディドー王を見つけた時、リンゴ王妃はバランスをくずし、足をふみはずしました。
「ああ、王妃様が落ちた!」
水晶玉を両手に持ったまま、
「アルセイダ・ダルムシュタ・ディドー!」
と、リンゴ王妃は、夢中でさけびました。
すると、
「承知」
と、手の中の水晶玉が答えたではありませんか!
そして、どこからともなく現れた大ガラスが、片方の足で水晶玉をもう片方でリンゴ王妃をつかみ、飛び去ったのでした。
「石を取りもどせ!」
ディドーのさけびがむなしくひびきます。しかし、もう、手おくれでした。
ドドドーンと、耳をつんざく音とともに、すさまじい勢いで水のお城はしずみ始めました。
「にげろ!」
人々は、あわててお城から走り出しました。
その夜、多くの人々はのがれて岸辺にたどり着きましたが、また、多くの人々がにげおくれて、お城といっしょにしずんだのでした。