水のお城(5/6)

文・伊藤由美  

その人々の中に、おそろしい顔でにらんでいるディドー王を見つけた時、リンゴ王妃はバランスをくずし、足をふみはずしました。
「ああ、王妃様が落ちた!」
水晶玉を両手に持ったまま、
「アルセイダ・ダルムシュタ・ディドー!」
と、リンゴ王妃は、夢中でさけびました。

すると、
「承知」
と、手の中の水晶玉が答えたではありませんか!
そして、どこからともなく現れた大ガラスが、片方の足で水晶玉をもう片方でリンゴ王妃をつかみ、飛び去ったのでした。

「石を取りもどせ!」
ディドーのさけびがむなしくひびきます。しかし、もう、手おくれでした。
ドドドーンと、耳をつんざく音とともに、すさまじい勢いで水のお城はしずみ始めました。

「にげろ!」
人々は、あわててお城から走り出しました。
その夜、多くの人々はのがれて岸辺にたどり着きましたが、また、多くの人々がにげおくれて、お城といっしょにしずんだのでした。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに