3 出動! その前に
「了解! あっ、でも、その前にここにいるはずの猫に会わせていただけませんか?」
「なぜだ?」
「飼い主が捜しています。それに、苦手なんでしょ、猫が」
「苦手だ。というより、嫌いだ! 奴らとはロクな思い出がない。子どもの頃、ひっかかれたり、噛みつかれたり、追いかけられたり」
「もしかして、何かやらかしました?」
猫は、何も手出しをしない人間や、悪意を持たない人間を、襲ったりはしないはず。
「いや。何も。奴らがやもりと遊んでいるので一緒に遊んだ。親猫が子猫を運んでいる時には手伝ってやった。それだけだ」
「それ、充分、やらかしてます。狩猟や子育てのじゃまをされた猫が、黙ってるはずないじゃないですか」
なんて、オレの言葉はむなしく消えてゆく。
猿神さんの眉が、でれんと垂れる。
「だが、チャッピーは別だ」
って、もう、名前までつけてるのか・・・。
「ひっかかないし、噛みつかないし、追いかけないし」
それ、フツーですから。
「2日前のことだった。玄関を開けたら、坐っていたんだ小さな猫が。そしてな、ワシをじーっと見上げた。思わずしゃがむと、猫はゆっくりと腰を上げ、膝に乗って来た。そして、眠った。このワシの膝の上でだぞ!」
瞳をうるませ、そう話す猿神さんのふにゃんとした顔から推察するに、すでに、心を奪われている様子。
でも、猿神さん。
だけど、猿神さん。
その猫には、新聞にまで載せて捜している飼い主がいるんです。
「とにかく! 猫を連れて来てください!」
心を鬼にしたオレの声と、
「エエエエエッ」
重なるその声は?
声の方に視線をやると、小柄な黒猫が、テーブルのすぐ横に、ちょこんと座り、三つ指をついたみたいに前足をきちんと揃え、こちらを見上げている。