もう、まったく!
オレは息を吸い、猿神さんに途中で話に割り込む隙を作らせぬように、勢いよく立て板に水を流す。
「想像してみてください。もし、そのステキな未来からチャッピーがいなくなったら、と。当然捜しますよね。草の根を分けてでも。そして、見つけたチャッピーは、誰かに保護されていた。連れて帰ろうとしたら、チャッピーを保護していてくれた人が、チャッピーを大好きになってしまって、別れたくないから返さない、と駄々をこねたらどうします?」
「ぶっ殺す!」
「ね?」
もう、わかるよね?
「なにが、ね? だ。したり顔するんじゃないっ! 世界中の誰一人、ワシとチャッピーのステキな未来を奪う権利はない!」
「だーかーらー、チャッピーの飼い主も、そう思ってるってことなんです」
オレは、新聞の切り抜きを取り出し、受話器に手を伸ばす。
「そんなことは、百も承知だ。だが・・・」
チャッピーを抱き上げて、胸に抱えた猿神さんが鼻水をずずっとすする。
「ちょっとくらい、抵抗、させてくれ・・・」
「わかりました」
そう、オレ。
猿神さんの様子、見ているうちに、ぼんやりと思い出したんだ。
昔々、オレも、こんな気持ちになったこと、あったっけ。
別れたくないのに、別れなきやいけないのは、辛い・・・、なんてこと思ったら、オレまで鼻水出てきちまった。
それなのに、猿神さんは、
「おまえ、なにをうるうるしてるんだ? その切り抜き、貸せ。ワシが電話する」
なんて見事な立ち直り、切り換えの速さだ、感心しつつオレは目をこする。
でも、感心するのは早かったようだ。
「なんじゃ、この文字列は! 乱れとる!」
オレは、猿神さんに、ティッシュをそっと渡した。