涙を拭い、もの凄い轟音を響かせて鼻をかんだ猿神さんが、黒い電話のダイヤルに指を入れ、ジーコジーコと回していく。
強く握った受話器を耳に押し当てている顔は、相当怖い。
この人でも緊張するのか?
と、見ていると、怖い顔が、ほにゃっと優しくなった。
にやけた顔で、
「おい、アキラ、聞いてみろ」
オレに受話器を突き出してくる。
耳に当てると、音声が流れ出す。
「・・・この番号は、お客様の都合により、現在使用されておりません・・・、だそうです」
「な、だろ? うふっ。中園さんには、連絡がつかん」
切り抜きを、くしゃっと丸め、ポケットに突っ込む様子は、嬉しそうだ。
「猿神さん、出しなさい。証拠隠滅をはかってもダメです。・・・猿神さん、もしかしたら、自分の携帯に電話したんじゃないですか? 例えば、現在、料金滞納になってたりする」
「って、おまえは、探偵かっ!」
「いえ、ただの助手1号です!」
さっ、貸しなさい! と突き出した手に、しぶしぶ顔の猿神さんが、丸めた切り抜きを、ぽと、と置いた。
中園さんの番号を回す。
耳に当てると、この番号は・・・、と音声が流れ出す。
「すみません、疑ったりして」
「うふっ。・・・疑われたワシとしては、ここは怒ってもいいところだと判断するが、気持ちがルンルンしすぎて怒れんから、許す」
鬼の首を取ったように言う猿神さんに、
「電話連絡つかない時こそ活躍するのが探偵じゃないですか!」
オレは、弱い矢を放つ。