「連絡が取れないから、電話したのに! 自分たちだって、携帯番号しか知らないくせに、どうやって連絡を入れさせていただくってんだよっ!」
オレは頭にきてるのに、猿神さんは満面の笑顔だ。
「猿神さんっ!」
睨みつけると、
「わかりましたよ」
しぶしぶ手帳を開き、受話器に手をかける。
「ああ、ワシだ。ワシ、ワシ。・・・おい、切るな、黒岩。ワシだ、猿神寅卯だ。・・・なに? 登録されてない番号だから、ワシワシ詐欺かと思ったと? ワシの携帯は、水没して壊れた。そんな軟弱な機械にワシは頼らんことにしたんだ。よって、以後、この番号を、登録しておくように・・・」
そう言って、猿神さんは、ざっとあらましをかいつまむ。
その高圧的な話しぶりから、相手は新聞社に勤務する後輩らしいと、オレは踏んだ。
「おお、了解、了解。黒岩、おまえ、出張中なのか? 帰るのは、3日後、だな。・・・いい、いい、急ぐ案件ではない。それくらいの猶予はやろう」
電話を切った猿神さんに、
「猶予、あげるんだ」
言った嫌味は、
「そう、あげるの。ワシって優しいから」
またもや、打ち返された。