「この雪道だから、目的地までは車で15分、歩きで30分ってところだな」
「歩き、ですか?」
「あのな、アキラ、ワシのキャロちゃんは、20年以上、頑張って働いているんだ。そんなキャロちゃんが、バッテリーを上げずに、この雪道を走れると思うか?」
って、そんなもん、知らんがな!
「それに、キャロちゃんはマニュアル車だぞ。パワステも付いとらんから、ハンドル操作に力がいるぞ」
って、それも、知らんがな!
オレにわかるのは、キャロちゃんがとってもレトロな車で、持ち主の性格同様、ややこしそうな車であるらしいということだけだ。
「目的地までは、跨線橋を越えたり、ガードをくぐったり、坂だらけじゃないか。跨線橋にもガード付近にも信号はある。赤になれば止まるだろう?」
「青になれば、発進ですね」
「バカか、おまえは! 冬のキャロちゃんに、坂道発進が出来ると思うか?」
「できない、んですか?」
「当たり前だ!」
この人と話していると、頭がクラクラしてくる。
クラクラする頭で、オレは考える。
どうすれば、話が円滑に進むのか?
「バウン、バウンと激しく身震いしながら、坂道をズルズル下がり、後続車にぶつかるのが関の山。そんなキャロちゃんに」
「坂道発進をさせては、いけません! キャロちゃんが、かわいそうです! さあ、出動しましょう! 歩いて!」
「よし、助手1号、出動だ!」
「はい!」
オレ、なんとなく、この人と話すコツみたいなものがつかめてきたかも?